「LPWA」という言葉を、ご存知でしょうか?
「Low Power Wide Area」の略で、少ない電力消費で、長距離通信が可能になる無線通信規格の事です。
携帯電話のLTE通信の通信可能距離が基地局から6Km程度なのに対して、LPWAは1Km~50Kmまで、理論上可能になります。
省電力についても、スマートフォンが普段使いで、せいぜい3日程度のバッテリーの持ちなのに対して、LPWAは、乾電池一個で1~2年は通信が可能です。
「そんな便利な規格があるなら、なぜスマートフォンに採用しないの?」というのは、当然の疑問です。
実は、低電力・遠距離通信が可能なLPWAは、超ロースピード・少量データという特定状況下の通信規格なのです。
100bps~400Kbpsと、例えるなら、音響カプラー(電話回線で、デジタル信号を音のトーンに変換してデータ通信する装置。パソコン通信時代に流行った)~初期の通信モデム(今のWi-Fiルータのご先祖様。壁紙の画像をダウンロードするのに、数時間必要だった)程度のロースピードとデータ転送性能です。
この「LPWA」が、この高速大容量通信が全盛の時代で、脚光を浴びています。それは、なぜか? この辺りの事情を探ってみました。
目次
LPWAとは?簡単にわかりやすく説明!
「Low Power Wide Area」の略で、言葉の意味通り「低電力消費・広域通信」ができる無線通信の規格です。
ナローバンドと呼ばれる通信帯域を使うことで、10Km以上の通信が可能です。これは、近距離通信規格と言われているBlueToothや、Wi-Fiを大きく上回ります。
また、データ通信量を抑える代わりに、低電力消費を実現するIoT/M2Mというデバイスを使用することで、長期間の運用に耐えることが可能です。
5Gという大容量・高速通信が実現されようという時代に、「LPWA」が注目されるには、理由があります。
通信には目的に応じた最適性能がある
私達が身近で無線通信の恩恵を意識するのは、携帯電話の時代から、音声会話だったり、ウェブの閲覧、画像の閲覧、動画の鑑賞などです。
これらの通信は、データ量と、それを実現させる為の消費電力という視点で見ると、とてもコストが高くて、その代わりに高性能な通信規格で支えられています。
しかし、世の中の全ての通信データが、その性能を必要とするわけでなく、低コストである事が重要になる使い方もあります。
例えば物流の世界で、移送する荷物に付ける電子タグなどは、荷物が配達される間、機能していればよく、さらに送受信するデータも通過したポイント示す数十桁のコードだけです。
更に追加するならば、冷凍・冷蔵品であれば、現在荷物が置かれている環境の温度ぐらいでしょうか。
こういう場合、低電力消費で、一度使用してしまえば、管理する必要が無く、必要な期間・必要なデータだけ送受信できる事が、通信性能よりも重要なのです。
自家用車の日々の走行距離や、室内温度、一酸化炭素濃度、燃料消費を計測して、自宅の車庫に戻った時に、日々記録するみたいな使い方でも、数値データを送信するだけなので、1Kbyteのデータ量にも満たないはずです。低電力消費なら、車のバッテリーを動力源にしても、殆ど影響がありません。
通信の世界では、大は小を兼ねないのです。
LPWAの主戦場は、社会のインフラを支えるデータ通信
多くの機器・機械や、農作物・畜産など、日常的に環境や状態のチェックが必要な分野があります。
人間がいちいちメーターをチェックしに行く事を考えると、その手間と費用が膨大になる事は、想像に堅くありません。
また、一度動き始めた計測器は、メンテナンスをして、正常に稼働する状態を保たねばなりません、その管理も場所が増えれば、大きな負担です。
こういう場合、一度セッティングしてしまえば、年単位で放置しても、自動でデータが集計できるなら、多くの費用と労力を削減できます。
送信するデータも、せいぜい計測値を1時間毎に送信するぐらいです。
計測値が異常になったら、計測器の故障か、実際に異常が起きているのか、いずれにしても、ピンポイントで特定できるので、メンテナンスも最低限で済みます。
LPWAの規格の種類
現在、世界中のメーカーや政府機関が、主導権を取ろうと、規格が乱立している状態です。
総務省の試算によると、2021年には、3.8億台に達し、売り上げは約10億ドルと、現在の10倍以上の規模になると予測されています。
普及の中心になると予想されている免許が不要な周波数を利用した通信規格は、上記の表のようになります。
日本で普及しそうなのは、オープン規格として、Wi-Fiのように規格の利用に費用の発生しないLoRaWAN(Long RangeWAN)です。
通信距離最大8Km、980bpsの速度で通信が可能です。
LPWA活用の具体例
例えば、厳格な温度管理が必要なフルーツを、複数のビニールハウスで栽培している農家がいるとしましょう。
当然、計測器で、湿度や温度の管理をするわけですが、今までですと、計測器の場所まで、ケーブルを敷設する必要がありました。
Wi-Fiでも、安定してデータ通信できるのは、数百メートルなので、中継を挟んで転送する必要が出てきます。
もし、これが1年に一回の電池交換で、メンテナンスフリーで自宅で集中管理できるとしたら、どれだけコストの削減になるかという事です。
「そこそこ離れた距離に点在する施設・機器を、メンテナンスフリーで管理する」という使い方には、最適のデバイスです。
- 川の氾濫、崖の崩落、ダムの決壊、公共インフラの崩壊などの予知・監視
- 大気中や森林、土壌、海洋、河川、湖沼などの環境汚染モニタリング
- マンホールの水位測定、漏れ電流やガス漏れの検知などの遠隔監視・保守
- 工事・建築現場における異常監視や作業管理
まだまだ、アイデア次第で、いくらでも応用できる場面は、あるでしょう。
LPWAの課題
強い電波では無い為、通信品質が環境の影響を受けやすい事があげられます。
移動中の車内、ビルが立ち並ぶ都会、木が生い茂る森林など、遮蔽物や状態によって、通信品質の確保ができるかどうかは、検証中の段階です。
前提としているのは、見通しの良い、開けた環境です。
まとめ
先日、アメリカのAmazonが、一部地域を除くアメリカ全土のプライム会員の配送期間を、2日から翌日に短縮する事を発表しました。
日本と違って、広大なアメリカで、これを実現するには、配達物の緻密な管理が必要になります。
今までの、追跡バーコードのように、配送拠点の通過だけでなく、荷物自体に状況を発信する機能が必要になる事が予想されます。
このように、世界のインフラは、社会を支える為に、提供するサービスが高度になれば、より緻密な管理を必要とするようになります。
個々に見れば、取るに足らないムダでも、世界全体で見れば、莫大な損失になるからです。
そうした管理情報を低コストで提供するLPWAは、今後の社会を考えるにあたって、避けて通れない課題と言えます。